2024年08月24日 16:00
1.ケース
【問題】
株式会社Xには代表取締役A、Bの2名がいます。
この度、私は株式会社Xから土地を購入することになったのですが、頂いた契約書には代表取締役Aとしか記載がされていません。2名を記載してもらう必要はないのでしょうか?
① 代表取締役1名だけの記載でよい。
「神戸市・・・・・・(本店)
株式会社X
代表取締役 A」
② 代表取締役2名を記載してもらう。
「神戸市・・・・・・(本店)
株式会社X
代表取締役 A
代表取締役 B」
株式会社Xには代表取締役A、Bの2名がいます。
この度、私は株式会社Xから土地を購入することになったのですが、頂いた契約書には代表取締役Aとしか記載がされていません。2名を記載してもらう必要はないのでしょうか?
① 代表取締役1名だけの記載でよい。
「神戸市・・・・・・(本店)
株式会社X
代表取締役 A」
② 代表取締役2名を記載してもらう。
「神戸市・・・・・・(本店)
株式会社X
代表取締役 A
代表取締役 B」
2.代表取締役とは?
代表取締役とは、会社を代表する権限を有する方をいいます。
その権限は、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(会社法349条4項)。
会社の業務に関する一切の行為とは、事業としてなされる行為であると(絶対的商行為または営業的商行為。商503条1項)、事業のためになされる行為(付属的商行為。商503条1項)であると問わないため、代表取締役は、強大な権限を有することになります。
3.代表取締役の代表権に制限をかけるとことはできるか?
代表取締役は強大な権限をもつため、会社によっては代表取締役の代表権を制限したいケースもあるでしょう。
例えば、取締役会の決議により、代表取締役の権限を、ある種類の事業(例:運送・販売・輸出入を行っている会社が代表取締役の権限を運送事業に限定をする)若しくは一定の地域の事業に限定(例:西日本における事業に限定する)したり、または一定金額を超える取引について取締役会の承認を要する旨等の制限したとします。
しかしながら、このような制限は、内部的な規律にとどまり、対外的にはほとんど意味をもちません。
会社法には「代表取締役の代表権に制限を加えても、この制限を善意の第三者に対抗することはできない」(会社法349条5項)と定められているからです。
つまり、代表取締役の権限に制限があったことを知らない第三者に対しては、会社は代表取締役の権限の制限があることを理由に、無効等を主張することはできなくなっています。
4.結論
会社法上、代表取締役は2名であろうと1名であろうと、それぞれの代表取締役(A、Bいずれも)包括的な代表権を有しています。
そのため、①代表取締役1名だけの記載だけの契約書でも有効に契約は成立します。
そのため、
「神戸市・・・・・・(本店)
株式会社X
代表取締役 A 印」
とう記載の契約書で十分です。
2人の氏名がなければ無効になるというわけではありません。
5.(ご参考)共同代表の定め
かつて、商法の時代は、強大な権限をもつ代表取締役が権限濫用しないように共同代表取締役の制度が設けられていました。
この制度は、複数の代表取締役(A、B)がいる場合に、取締役会において、その数人(A、B)が共同して会社を代表すべきことが定めらた代表取締役であって、この定めがなされると、ABが共同して会社を代表する行為をしなければ、その効果が会社に帰属しないとされるものでした。
当該定めは、登記事項とされていたものの(旧商188条2項9号)、現実に共同代表取締役の登記がされている例は稀だったようです。
実際、当該代表取締役が単独代表権を有していたと信じた取引の相手方との間でトラブルの原因となっていたうえ、表見代表取締役の規定の類推適用に保護されることが通常であったことから機能する場面は少なかったとされています。
そのため、現行会社法では、共同代表取締役制度は撤廃されております。
※なお、「登記はできないが、定款に定めることまでは否定されない」(中央経済社 編『「会社法」法令集〈第十四版〉』(中央経済社、2022年)150頁)とされていますが、これは内部的な規律にとどまります。
(参考文献)
①前田庸『会社法入門〔第13版〕』(有斐閣、2018)511~514頁。
2024年06月03日 00:00
1.前提知識
相続放棄とは、プラスの財産を引き継がない代わりにマイナスの財産も引き継がなくてよくなる制度です。
この制度を利用するためには、相続放棄をする旨を家庭裁判所に申述しなければならない(民法938条)とされています。
お亡くなりになられた方(=被相続人といいます)に借金が多いケースや、相続に関わりたくない人などがよく利用されます。
ただ、注意しなければならないのは,プラス財産を取得してしまうと相続放棄できなくなるという点です。
では、未支給年金を受領すると、相続放棄できなくなるのでしょうか?
2.未支給年金を受け取っても相続放棄できるか?
(1)問題の所在
未支給年金を受け取っても相続放棄ができるかどうかという点については、未支給年金の法的性質を検討しなければなりません。
未支給年金が、相続財産にあてはまるのであれば、相続放棄をした以上、受領してはいけませんし(受領した場合は、単純承認とみなされます)、相続人固有の財産であれば、受け取っても相続放棄には影響しません。
では、国民年金法の規定をみて、未支給年金の法的性質について検討していきましょう。
【 国民年金法】
(未支給年金)
(未支給年金)
第十九条 年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
2 前項の場合において、死亡した者が遺族基礎年金の受給権者であつたときは、その者の死亡の当時当該遺族基礎年金の支給の要件となり、又はその額の加算の対象となつていた被保険者又は被保険者であつた者の子は、同項に規定する子とみなす。
3 第一項の場合において、死亡した受給権者が死亡前にその年金を請求していなかつたときは、同項に規定する者は、自己の名で、その年金を請求することができる。
4 未支給の年金を受けるべき者の順位は、政令で定める。
5 未支給の年金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その一人のした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
(2)判例(最判平成7年11月7日)
未支給年金が相続財産にあたるかどうかについては、次の判例が参考になります。
この判例は、国民年金法(昭和六〇年法律第三四号による改正前のもの)に基づく年金の受給資格を有する者が国に対して未支給年金の支払を求める訴訟の係属中に死亡した場合における訴訟承継の成否について争われた事件ではありますが、最高裁は、未支給年金の法的性質について、次のとおり判示しました。
国民年金法一九条一項は、「年金給付の受給権者が死亡した場合において、
その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死
亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の
支給を請求することができる。」と定め、同条五項は、「未支給の年金を受けるべ
き者の順位は、第一項に規定する順序による。」と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、 死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途
相続の対象となるものでないことは明らかである。
つまり、最高裁は未支給年金は、「相続の対象となるものではない」との判断を示しているため、相続放棄をしても未支給年金を受給してもかまわないということになります。
相続放棄をする際は、相続財産かどうかの判断が非常に重要となりますので、十分法的検討をしたうえで、受給してください。
なお、以下にご紹介した判例のほか、過去の関連記事も記載していますので、ご参考にしてください。
<ご参考>
(1)最判平成7年11月7日判決
(2)過去の関連記事
2024年03月30日 15:01
過去に[実務メモ(商業登記)]会社の代表者の氏名・住所が変わっていたら?という記事を書きましたが、今回は、休眠会社のみなし解散後された会社を、会社継続する際に、役員に氏名や住所が変更していた場合のケースについて取り上げます。
1.事例
次の会社が、みなし解散されてしまい、この度、会社継続登記申請をしたい。
取締役会非設置会社
取締役 A、B、Cの3名
代表取締役 A
法定清算人の登記を入れるため、清算人A、B、C、代表清算人Aの登記を申請したいが、Aの氏名・住所が変わっていたことが判明した。
このとき、取締役・代表取締役Aの氏名・住所変更登記が必要か?
(言い換えれば、そのまま現在の氏名住所のまま清算人A、代表清算人Aの登記を申請することができるか?)
取締役会非設置会社
取締役 A、B、Cの3名
代表取締役 A
法定清算人の登記を入れるため、清算人A、B、C、代表清算人Aの登記を申請したいが、Aの氏名・住所が変わっていたことが判明した。
このとき、取締役・代表取締役Aの氏名・住所変更登記が必要か?
(言い換えれば、そのまま現在の氏名住所のまま清算人A、代表清算人Aの登記を申請することができるか?)
2.前提知識
(1)みなし解散とは?
株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年をした会社は休眠会社と呼ばれます(会社法472条)。
法務大臣は、休眠会社に対し、本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告し、通知を行います(会社法472条1項・2項)。
もし、休眠会社が官報公告から2ヵ月以内の間に事業を廃止していない旨の届出をしなかった場合や当該期間内に登記申請をしなかった場合は、解散したものとみなされ(会社法472条1項)、登記官の職権で解散の登記がされます(商業登記法72条)。
例年は、10月中旬に官報に公告され、12月にみなし解散の登記が入れられます。
なお、株式会社だけではなく、一般社団法人(法人法149条)、一般財団法人(法人法203条)についても同様にみなし解散される規定があります。一般社団法人や一般財団法人は、株式会社とは違い、「登記が最後にあった日から5年」が経過している法人が、みなし解散の対象となります。
(2)会社継続の登記
一定の事由により解散した株式会社は、清算が結了するまでの間は、株主総会の決議によって、株式会社を継続することができます(会社法472条)。
みなし解散も、解散したものとみなされた後3年以内であれば、清算が結了するまでの間、株式会社を継続することができます(会社法472条括弧書き)。
なお、一般社団法人や、一般財団法人についても、解散したものとみなされたときから3年以内であれば、清算が結了するまでの間、社員総会の決議(一般社団法人の場合)または評議員会の決議(一般財団法人の場合)、法人を継続することができます(法人法150条、204条)。
3.事例の検討
過去に書いた[実務メモ(商業登記)]会社の代表者の氏名・住所が変わっていたら?では、
(1)氏名や住所が変わっている役員の重任登記
→氏名や住所変更登記は不要(更正登記も同様に不要)
(2)氏名や住所が変わっている役員が死亡したことにより、役員の死亡による退任登記の申請
→氏名や住所変更登記は必要。
と解されている旨をご紹介しました。
今回の事例については、(2)と同様に、Aの氏名住所の変更登記が必要になると考えられています。
神﨑満治郎「商業・法人登記実務上の諸問題(第35回)」(登記研究823号85頁)より
「代表取締役の氏名住所と代表清算人の氏名住所が異なる場合には、抹消する記号が記録された代表取締役について住所変更の登記の申請が必要と考えます」
「代表取締役の氏名住所と代表清算人の氏名住所が異なる場合には、抹消する記号が記録された代表取締役について住所変更の登記の申請が必要と考えます」
ここからは私見にはなりますが、
基本的には住所変更登記が必要だけど、例外的に重任の場面については不要ということになりそうです。
4.会社継続時の注意点
(1)なすべき登記
会社継続の登記をする場合は、多くの登記事項をいじらなければなりません。
例えば、以下のような登記申請が必要となってきます(神﨑満治郎「商業・法人登記実務上の諸問題(第35回)」(登記研究823号85頁))。
①取締役の氏名変更登記、代表取締役の氏名住所変更登記(あれば)
②清算人及び代表清算人の就任登記
③会社継続登記
④取締役、代表取締役及び監査役の変更(監査役の場合は、設置していれば)
- 取締役や代表取締役は、みなし解散時に職権で抹消されますが(商業登記規則72条1項)、監査役については、職権で抹消されないので、監査役の任期が満了しているとして、「監査役の退任の登記が必要になります。
⑤取締役会設置会社の定めの設定(あれば)
- 監査役設置会社の定めは、取締役会設置会社の定めと異なり、みなし解散されても効力に影響はありません。
(参考)株式会社の解散の登記の際に職権抹消される登記
→商業登記規則59条、72条参照。
(2)規則61条の適用について
- 定められた代表取締役が代表清算人と同一であっても、資格が異なるため、代表清算人であった者が議事録等に届出印を押印していても、商業登記規則61条6項但書きの規定は適用されないと考えられています(そのほかにも、従前の代表取締役の登記は、解散がなされたときに職権で抹消されており、印鑑を提出していた代表取締役があったとしても、印鑑提出者としての資格を喪失し、提出していた印鑑についても所要の処理がなされており(平成27年9月7日民商104、商業登記規則9の2)、従前の登記所に提出している印鑑が存在しないことも理由(加藤政也『商業登記と会社法』254頁))。
- 代表清算人が代表取締役に選任されても、「再任」ではないので、規則61条4項の例外が認められることはなく、印鑑証明書の添付を省略することはできない(本人確認証明書の添付がいるケースでも省略は認められない)。
※取締役及び代表取締役は解散により退任し、別種の機関である法定清算人となっている。
※取締役を監査役に就任するケースでも本人確認証明書の添付を求められる。
2024年01月01日 00:00
新年あけましておめでとうございます。
昨年は大変お世話になりました。
開業して1年5か月、無事事業を継続できておりますのも、皆様のご愛顧のおかげでございます。
改めて感謝申し上げます。
さて、昨年はYouTubeを試験的にはじめ、約22もの動画をアップロードしました。
まだまだ、至らぬところもあり、定期的にアップロードができているわけでありませんが、「よりよい情報をよりわかりやすく」お伝えできるよう、精一杯頑張って参ります。
また、このブログ(リーガルフォレスト)につきましても、日々多くの方にお読み頂いております。
ブログについてはYouTubeよりも詳しめの内容で、より実務的なものが中心となってくるかと思います。
こちらもアップしていきますので、どうぞご期待ください。
今年1年が皆様にとってよりよい年となるよう祈念して、年始のご挨拶とさせて頂きます。
2024年元旦
2023年08月13日 18:39
1.はじめに
令和3年不動産登記法改正では、
- 令和5年4月1日から施行されるもの(形骸化した登記の抹消手続きの簡略化、登記簿の付属書類の閲覧の可否の基準の合理化)
- 令和 6年4月1日から施行されるもの(相続登記の義務化など)
- 「改正法の公布の日(令和3年4月28日)から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されるもの
の3つがありました。
この度、令和5年8月2日に「民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(政令第251号)が制定され、令和3年度不動産登記法改正の施行日が出そろいました。
2.今回の施行日
(1)所有不動産登記記録証明制度
令和8年2月2日~施行
(2)その他(住所等変更登記の義務化など)
令和8年4月1日~施行
3.コメント
原則として、令和8年4月1日~施行されますが、所有不動産登記記録証明制度については、それより2か月ほど早い、令和8年2月2日~施行されることになりました。
なお、今回の令和3年民法・不動産登記法改正の施行日について、別表でまとめておきましたので、下記のリンクをご参照ください。
(資料)令和3年民法・不動産登記法改正の施行日
この度、令和5年8月2日に「民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(政令第251号)が制定され、令和3年度不動産登記法改正の施行日が出そろいました。
2.今回の施行日
(1)所有不動産登記記録証明制度
令和8年2月2日~施行
(2)その他(住所等変更登記の義務化など)
令和8年4月1日~施行
3.コメント
原則として、令和8年4月1日~施行されますが、所有不動産登記記録証明制度については、それより2か月ほど早い、令和8年2月2日~施行されることになりました。
なお、今回の令和3年民法・不動産登記法改正の施行日について、別表でまとめておきましたので、下記のリンクをご参照ください。
(資料)令和3年民法・不動産登記法改正の施行日